プリテンダー
悲愴感の溢れる顔で、渡部さんはじっと僕を見つめた。

「それって…私の事は好きじゃないって言いたいの?」

「渡部さんの事はちょっと仲のいい同僚以上に思った事はない。」

渡部さんは唇を噛んでうつむいた。

また涙が落ちて、膝の上で握りしめた手の甲を濡らす。

「他に好きな人がいるの…?」

なんで彼女でもない渡部さんにそんな事を答えなきゃいけないんだ。

少なくとも君の事は好きじゃないよ、って言ったらあきらめてくれるだろうか。

「僕は渡部さんの彼氏じゃないよ。そんな事を答える必要ある?」

「ひどい…。」

ひどいのはどっちだ。

僕は最初から付き合う気はないって言ってたじゃないか。

それなのに勝手に彼女気取りで僕の体を求めてきたのは渡部さんの方だ。

「そう思うなら、誰か他の人見つけて。渡部さんは僕を買い被りすぎなんだ。僕は渡部さんが思ってるような優しい男じゃない。」

今度こそ帰ろう。

そう思って立ち上がろうとした時、渡部さんが僕の手を掴んだ。


「鴫野くん…これで終わりにするから…。」




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