プリテンダー
そんな事を思いながらその場所を通り過ぎようとした時。

少し先のラブホテルから、一組のカップルが出てきた。

僕の視界に映ったのは、見慣れたはずの後ろ姿。

髪の長さや背格好、服装。

そのカップルの女性は、まぎれもなく美玖だった。

その隣には見知らぬ男がいて、美玖はその男の腕に嬉しそうに腕を絡めて笑っている。

「えっ…?」

どういう事だ?

今日は残業で会えないんじゃなかったのか?

美玖は僕の姿に気付く様子もなく、男と腕を組んで歩いていく。

「オイ、鴫野…あれって…。」

「……。」

現場を目の当たりにしてしまったんだから、追い掛けて問い詰める気にもなれない。

ただ情けなくて、拳を握りしめた。

「忙しいのは、仕事じゃなかったみたいですね…。」

「このまま黙って見過ごしていいのか?!」

「現場を見ちゃったんですよ。僕に嘘ついてまで他の男と会ってたんでしょ。これ以上何聞けって言うんですか?」


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