プリテンダー
午前3時過ぎ。

ようやく家に帰り着くとリビングのドアから明かりがもれていた。

杏さんは今夜は帰れそうにないって言っていたし、朝出掛けるときに消し忘れたかな?

そんな事を考えながら廊下を歩き、リビングのドアを開けた。

「遅かったな…。」

杏さんはソファーに座り、僕に背を向けたまま呟いた。

「あ…杏さん…。」

帰れそうにないと言っていた杏さんが家にいる事に驚き、さっきまで自分のしていた事への後ろめたさで、何も言えなかった。

「こんな遅くまで何してたんだ。」

「……矢野さんと一緒にいました。」

本当の事なんて言えない。

杏さんはソファーから立ち上がってため息をついた。

「鴫野も人並みに嘘をつくんだな。」

「えっ…。」

どうして嘘をついているとわかったんだ?

杏さんは僕が矢野さんと飲みに行っていた事を知っているし、そこに渡部さんがいた事は知らないはずなのに。

僕にはわけがわからない。


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