プリテンダー
言い訳をする余地もなかった。

僕は杏さんとの約束をやぶって杏さんに言えないような事をして、それを隠すために嘘をついた。

杏さんはそんな僕を蔑むような目で見て、ひどく悲しそうな顔をしていた。


杏さんの遊園地での無邪気な笑顔や、僕の料理を食べて瞬きをする顔、照れて真っ赤になった顔。

会社では見たことのなかった杏さんの顔を思い出すと、息をするのも苦しくなるほど胸が痛んだ。

杏さんは少なからず僕に心を開いてくれていたと思う。


だけどもう僕はきっと、偽物の婚約者としても杏さんに必要とはしてもらえない。






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