プリテンダー
その日、僕は久しぶりにばあちゃんの家に帰っていた。

前日の夜遅く、ばあちゃんが怪我をしたと近所のおばちゃんから連絡をもらったからだ。

とりあえず3日間の有給をもらい、土日の休日と合わせた5日間、僕はばあちゃんの家に泊まり込んで世話をする事にした。


久しぶりに会うばあちゃんは少し老けたというか、小さく見えた。

ばあちゃんは買い物の帰りに道路の段差に足を取られて転び、その拍子についた手首を捻挫してしまったらしい。

骨に異常がなかったのは、不幸中の幸いだ。

膝とてのひらにも大きな擦り傷ができていた。

これくらいの怪我で大袈裟だとばあちゃんは笑う。

でもやっぱり、こんな時くらいは僕を頼ってほしい。

いくら元気と言ってももう高齢だから、小さな怪我や病気も油断はできない。


近所の人たちとの付き合いがあるから一人でも大丈夫だと前から言っていたけど、ばあちゃんはこんなふうに怪我をしても、僕には心配掛けまいと連絡を寄越さなかった。

実の両親なんかより、ばあちゃんの方がずっと僕の親らしいと思う。

僕にとっては大切なたった一人の育ての親だ。

目一杯親孝行しよう。

いつか僕が結婚する時も子供が生まれる時にもいて欲しいから、元気で長生きしてくれないと困るもんな。


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