プリテンダー
翌日。

いつものように出社した僕に、矢野さんは言った。

「渡部、会社辞めたよ。」

僕が休んでいた先週の金曜で、渡部さんは会社を辞めたそうだ。

僕のせいかも知れない。

渡部さん自身が望んだ事とは言え、僕のした事は渡部さんを傷付けたんだと思う。

そう思うとまた、あんな事をするんじゃなかったと後悔の念にとらわれた。

美玖にフラれて傷付いたはずなのに、僕はこの手で、僕を好きだと言ってくれた渡部さんを傷付けた。

だけどどんなにごまかしても、僕はきっとこの先も渡部さんを好きにはなれなかったと思う。

渡部さんを抱きながら、なぜか僕の脳裏には杏さんが浮かんでいた。

だから余計に後ろめたかった。



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