プリテンダー
繰り返される尋問に疲れきってうんざりしている時、重役の一人が隣に座っていた重役に向かって呟いた。

「この会社は有澤グループだな…。こんな大企業が盗作なんて、我が社の買収でも目論んでるのか?」


有澤グループ…?


疑いたくはないけれど、僕の脳裏には杏さんの顔がよぎった。

まさか杏さんがそんな事をするわけがない。

杏さんは自分の意志で有澤の家を出て、この会社に就職したと言っていたんだから。

だけど僕と有澤グループの接点なんて、杏さんしかない。

社内の人間は、杏さんが有澤グループの令嬢だという事実を知らない。

もしその事が公になってしまったら…。

僕の胸が、イヤな音をたててざわついた。



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