プリテンダー
僕が夕飯の支度を終えた頃、杏さんが疲れきった顔をして帰宅した。

「おかえりなさい。」

「ただいま…。」

久しぶりの“おかえりなさい”と“ただいま”に、少し照れ臭くなった。

「鴫野…。」

何かを言いかけた杏さんの言葉を遮って、僕は笑って振り返った。

「杏さん、お腹すいたでしょう。夕飯にしましょうね。」


久しぶりに杏さんと向かい合って、二人一緒に夕飯を食べた。

杏さんは僕の作った料理を黙々と食べ進めた。

「今日の料理はお口に合いますか?」

僕が尋ねると、杏さんは少し手を止めて微かに笑みを浮かべた。

「うん…美味しい…とても。」

杏さんは大根の煮付けを箸で摘まんで、僕の方を見ないで呟く。

「一人で食べるより、一緒に食べると更に美味しいな…。」

「…僕もです。」

箸で摘まんだ大根の煮付けをうつむいて口に運ぶ杏さんの目元が、少し潤んでいるような気がした。


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