プリテンダー
翌日。

どこから噂が広がったのか、企業スパイはこの会社にいると誰もが口にしていた。

盗作騒動で社内の誰もが興奮状態だ。

そんな中、誰かが言い出した。


“芦原部長は有澤グループの人間だ”


どこでそれを知ったのか、誰がその噂を流したのかはわからない。

杏さんは朝からまた重役に呼び出され、定時を過ぎても部署に帰って来なかった。


盗作騒動と杏さんが有澤グループの令嬢だという事実が社内に知れ渡った事で、杏さんは翌日から自宅謹慎を余儀なくされた。

杏さんは部屋から出てこない。

相当参っているのかも知れない。

僕も社内で変な目で見られる事はあるけど、試作室に籠ってやり過ごした。

試作室で一緒に働いている人たちにも、疑われているのかも知れない。

だけど僕にはやましい事なんてない。

堂々と仕事をする以外、身の潔白を証明する方法はなかった。

杏さん、ちゃんと御飯食べたかな。

食欲のない杏さんのために、刻んだ梅とシソとちりめんじゃこのおにぎりを作り、テーブルの上に置いて出社した。


社内の人間に疑いを掛けられている今、僕だけは杏さんの味方でありたいと思った。

みんなの知らない杏さんを、僕は知っているから。


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