プリテンダー
やっと笑ってくれたのに


その週末。

ばあちゃんの様子を見に行こうとすると、珍しく部屋から出てきた杏さんが、車で送ると言ってくれた。

部屋に籠りきりで、気分転換したいのかな。

そんなふうに思った僕は、杏さんの厚意に甘える事にした。


さすがと言うかなんと言うか、高そうな乗り心地のいいドイツ製の立派な車で、杏さんは僕をばあちゃんの家まで送ってくれた。

お茶くらい飲んで行ってくださいと言うと杏さんは遠慮して断ったけれど、僕は遊園地に行った時みたいに杏さんの手を引いて強引に家の中に連れて入った。

「ただいま!」

杏さんの手を握ったまま、玄関で大きな声を出すと、家の中からばあちゃんがゆっくりと歩いて玄関に出てきた。

「章悟、大きな声を出して…。」

ばあちゃんの顔を見た瞬間、杏さんが僕の手を強く握った。

「…ばあや?」

え?

「……杏お嬢さんですか?!」

ええっ?!

杏さんは僕の手を離して、ばあちゃんに抱きついた。

「ばあや…!会いたかった…!」

「お嬢さん…立派になられて…。」

何これ?

感動の再会シーンを前に、僕は茫然と立ちすくんだ。


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