プリテンダー
「章悟あんた、この方…有澤 杏さんと、お知り合いなの?」

杏さんの苗字は芦原だろ?

「僕の上司の芦原 杏さんだけど…。」

僕が首をかしげると杏さんが僕の方を向いた。

「うちの社長は昔からの知り合いでな…社長の勧めもあって、私は会社では母の旧姓の芦原を名乗っている。本名は有澤 杏だ。」

「そうなんですか?」

そんな事もできちゃうのか。

「杏お嬢さんは、昔私が女中頭を勤めていた有澤家のお嬢さんでね。」

「え?ばあちゃんの勤めてた家って杏さんの実家なの?」

ばあちゃんは杏さんに頭を下げた。

「孫がお世話になって…。」

杏さんはまだ信じられない様子だ。

「ばあやが鴫野のお祖母様だったとは…。」

「それにしても二十何年ぶりかしら。まさか杏お嬢さんにお会いできるなんて…。」

あ、なるほど。

あの写真の女の子は杏さんで、杏さんの言っていたばあやは僕のばあちゃんだったんだ。

だから杏さんは、ばあちゃんに育てられた僕の事を、ばあやに似てるって思ったのかも。

ばあちゃんの作った料理で育った僕の料理は、ばあちゃんの作る料理に似てる。

すべて辻褄が合う。

「とりあえず…中に入ってお茶でも飲もうよ。ばあちゃんの好きな大福買ってきたよ。」



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