プリテンダー
その日の夕方、ずいぶん怪我の具合が良くなったばあちゃんと僕は、一緒に台所に立って夕飯の支度をした。

今日の夕飯は味噌ちゃんこ鍋。

杏さんも一緒に三人で鍋をつついた。

ばあちゃんの作るつみれは相変わらず絶品だ。

少食の杏さんが、いつもよりたくさん食べていた。

大好きなばあやに会えたのがよほど嬉しかったのか、杏さんは楽しそうに笑っていた。

その夜は遅くなったので、杏さんもばあちゃんの家に泊まった。



僕は家を出る前に使っていた自分の部屋で、なかなか寝付けず布団に横になっていた。

まさか僕のばあちゃんが杏さんのばあやだったとは。

世の中広いようで狭いんだな。

杏さんは子供の頃を思い出したのか、ばあちゃんの前では、遊園地に行った時みたいに無邪気に笑っていた。

なんだかちょっと悔しいな。

僕の前では恋人の演技で笑っていた杏さんが、ばあちゃんの前では素直に笑っていた。

だけど杏さんの大好きなばあやが僕の大切なばあちゃんだと思うと、それも悪くないかなって思えた。


杏さんが笑うと僕も嬉しい。

こんなふうに胸が温かくなるのはどうしてだろう?



< 166 / 232 >

この作品をシェア

pagetop