プリテンダー
翌日の夕方、ばあちゃんの家を出て帰宅した。

向かい合って夕飯を食べていると、杏さんは箸を止めて僕を見た。

「世の中にはすごい偶然があるもんだな。」

「そうですね…。」

杏さんは穏やかに笑みを浮かべた。

「もう会えないと思っていたから…会えて嬉しかった。」

「ばあちゃんも杏さんに会えて嬉しかったと思います。」

「うん…。」

うなずいて静かに笑う杏さんを見ていると、僕の胸がキュッと甘い音をたてた。

……なんだこれ。

かわいくて、愛しくて、抱きしめたくなる。

杏さんの笑顔を見たのは久しぶりだからかな。


ねぇ杏さん。

この笑顔をずっと隣で見ていたいと思うのは、身の程知らずだろうか?

偽物の婚約者でもいいから、このままずっと一緒にいたいなんて。


僕はどうしてこんな事を思っているんだろう?




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