プリテンダー
好きになってもどうにもならない相手なのに。

今更好きだと気付いても遅いのに。

僕の気持ちを杏さんに伝える事はもうできないけれど、恋人ごっこの最後に一度だけ…。

「杏…好きだよ。」

眠っている杏さんの唇に、微かに触れるだけのキスをした。

胸が強くしめつけられるように痛んで、涙があとからあとからこぼれ落ちた。

男のくせにこんなに泣くなんてカッコ悪い。

今まで恋人と別れてもこんなに泣いた事はなかったのに。

カッコ悪いついでに泣くだけ泣いたら、杏さんの事はきれいさっぱりあきらめよう。

いつかは杏さんも、僕と一緒に暮らした日々の事なんて忘れてしまうんだろう。

短い夢を見ていたみたいに。



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