プリテンダー
「恋愛を一度も経験しないままで市来さんと結婚しても、杏さんは後悔しませんか?」

「後悔も何も…。」

「僕にだけは本音を話してください。」

杏さんは困った顔をしてため息をついた。

「そうだな…。一度くらいは本気の恋愛という物も経験してみたかった。鴫野にはムチャを言ったけど、ふりとは言えデートもしたし、ほんの少しでも経験できて楽しかったぞ。」

「杏さん…。」

「できれば本当は…。」

そこまで言いかけて、杏さんは口をつぐんだ。

「本当は…なんですか?」

「いや、もういいんだ。もう婚約者のふりをする必要はないし、鴫野にこれ以上ムチャな要求をするわけにはいかない。」

「…できれば本当は、どうしたいんですか?」

杏さんの目をじっと見つめて、もう一度尋ねてみた。

杏さんは目を見開いてから、下を向いてモゴモゴと口の中で何かを呟いている。

……言うのが恥ずかしいのかな。

かわいいから無理やり白状させちゃおうか。


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