プリテンダー
「それにしても、一体誰の仕業だったんだろうな。」

「盗作ですか?」

「それもだけど…杏さんが有澤家の人間だって言い出した奴とかさ。」

確かにそうだ。

杏さん本人が自ら口外するわけがないし、一体どこからその情報が漏れたんだろう?

「企業スパイとかさ…ドラマみたいな事もあるんだな。普通の社員のふりしてさ、いつも一緒に働いてる奴が実はスパイかも知れないじゃん?疑いだしたら人間不信になりそうだ。」

「それはイヤですね…。」

杏さんは疑われたままで会社を去った。

きっとこの件の真相はうやむやのまま忘れられるんだろう。

「なぁ、仕事の後、時間あるか?」

「ありますけど…。」

「ちょっと気になる噂聞いたんだけど、会社じゃちょっとアレだから…。」

気になる噂ってなんだろう?

どうせ早く帰ったって今日からは一人だ。

杏さんの夕飯の支度をする必要もない。

僕は矢野さんの誘いに乗る事にした。




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