プリテンダー
やけ酒の果ての過ち
それから僕は矢野さんと杏さんと一緒に足を運んだバーで酒を飲んだ。
矢野さんは気の毒そうな目で僕を見ながら肩を叩いて、何度となく慰めたり励ましたりしてくれた。
杏さんは何も言わず、黙って酒を飲んでいた。
そのうち完全に酔いが回った僕は、ウイスキーの水割りを煽りながら矢野さんに愚痴をこぼした。
「聞いてくださいよ矢野さん、僕は地味でつまらないんですって。」
「地味?」
「料理もデートも記念日もセックスも、何もかもが地味でつまらないんだって。僕と一緒にいてドキドキした事なんて、一度もなかったって言われましたよ。」
「なんだそれ…。」
「この先一緒にいても、刺激もトキメキもないから別れてくれって。2年も付き合っておいて今更でしょ?」
「そうだな…。」
矢野さんは心底困っているんだろうなと思ったけど、僕はどうしようもない悔しさを吐き出し続けた。
「なんのために2年も付き合ってたんだろ…。好きじゃないならもっと早く言えっての…。」
くだを巻く僕を、杏さんは不思議そうに見ている。
「じゃあ鴫野は、なんのために彼女と付き合ってたんだ?」
「なんのために、って…。好きだったからですよ、悪いですか?」
「悪いとは言ってないぞ?だったら彼女はなんで鴫野と付き合ってたんだ?好きじゃなかったんだろう?」
「知りませんよ…。そんなの僕にわかるわけがないでしょう…。」
デリカシーの欠片もないな…。
そんなの僕の方が知りたいくらいだ。