プリテンダー
嵐の後の胸騒ぎ
元の部屋で一人暮らしに戻って二度目の週末。
僕はばあちゃんの家に足を運んだ。
出迎えたばあちゃんは、杏さんが一緒じゃない事にがっかりしていた。
ばあちゃんが淹れてくれたお茶を飲みながら、僕が途中で買ってきた大福を二人で食べた。
「今日も一緒に来てくれるもんだと思って、夕飯の材料多目に用意しといたんだけど残念だねえ。杏お嬢さんは元気になさってる?」
ばあちゃんが何気なく言った一言に、僕は黙り込んで手元を見つめた。
「もうここには来ないかも…。」
「どうして?」
杏さんが来るのを楽しみにしていたばあちゃんには、話しておいた方がいいかも知れない。
「杏さん、会社辞めて有澤家に戻ったんだ。」
それから僕は、杏さんが有澤家に戻らざるを得なくなった理由をばあちゃんに話した。
お祖父様が心臓の病気で会長職を退く事や、社長の後継者に杏さんが選ばれた事。
そして杏さんが有澤家に戻ってイチキの御曹司と結婚する事。
「イチキの御曹司って…穂高さんの事かい?」
「うん…。杏さんは結婚したくなかったみたいなんだけどね。」