プリテンダー
矢野さんは日本酒を飲みながら首をかしげた。

「渡部ってそんな奴だったかなぁ…。でもおまえじゃないなら、その金持ちの男に貢いでもらってたのかな。」

「きっと地味な僕なんかより、金持ちのいい男がいたんでしょう。」

渡部さんの事は別に好きじゃなかったから男がいようがどうでもいい。

だけど、美玖が他の男とホテルから出てきた現場を目撃した時の事が思い出されて、なんとなく後味が悪い。


なんだ。

あれだけ僕の事が好きだと言っていたくせに、他に男がいたわけだ。

だったらあんなに必死に僕にすがったりする必要なんてなかったんじゃないのか?

僕はあんなにも罪悪感と後ろめたさを感じて、杏さんの顔も見られなくなったというのに。

男ならきっと誰だって、たいして好きでなくてもかわいい女の子とセックスできたらラッキーだと思ったりするのかも知れない。

僕にだってそんな部分はあると思う。



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