プリテンダー
「大旦那様がご病気だとうかがってね。お見舞いに行きたいのだけど、入院先を教えて下さる?」

ばあちゃんは和代さんから、お祖父様の入院している病院をあっさりと聞き出した。

これからそこに向かうと言うと、和代さんが気を利かせて、屋敷に勤めている若い男性に車で送らせると言った。

この間のリムジンとまではいかないが、僕とばあちゃんは乗り心地のいい立派な車で病院まで送ってもらった。

あまりの急展開に、僕は何がなんだかわからないままばあちゃんに付き添った。


それにしても…大旦那様って、杏さんのお祖父様だよな?

いくら元女中頭とは言え、いきなり会いに行っちゃうわけ?

僕は不意に、杏さんに婚約者として紹介された時のお祖父様の眼光の鋭さを思い出して青ざめた。

お祖父様は僕の事、偽物の婚約者だって気付いてたんだよね?

お祖父様を騙した僕が、今更ノコノコ会いに行ってもいいものだろうか?

……怖すぎる…。

冷や汗を流す僕の事などお構いなしで、ばあちゃんはお祖父様の病室に向かって、すごい速さでどんどん進む。


首を斬られる覚悟くらいはしておいた方が良さそうだ。



< 207 / 232 >

この作品をシェア

pagetop