プリテンダー
半ば引きずられるようにしてバーを出た僕の足元は、フラフラとおぼつかない。

「あーもう…しょうがねーなぁ…。」

まともに歩けない僕を送るために、矢野さんはタクシーを拾おうとした。

「矢野の家は確か、この近所なんだろう?」

「そうなんですけど…。鴫野、こんな状態じゃ一人で帰れないでしょう。」

「鴫野の家はどこだ?」

矢野さんはスマホで地図のアプリを開いて、僕の家の詳しい場所を杏さんに教え始めた。

「ここならうちと同じ方向だ。私が送って行くから矢野はタクシー拾ったら帰っていいぞ。」

「えっ…でも杏さん一人で大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。こう見えて力はある。」

「僕は一人で帰れますよー…。」

めちゃくちゃ酔っているなと自分で思いながら、なんとか自力で歩こうとしてみたりする。

「あ、タクシー来ました。」

酔っ払いの戯言なんかに耳も貸さないとでも言うかのように、矢野さんは僕の言葉を無視してタクシーに向かって手を挙げた。

矢野さんはタクシーの後部座席に僕を押し込んで、運転手に行き先を細かく説明した。

「それじゃあ杏さん…すみませんけど、鴫野の事お願いします。」

「ああ、任せとけ。ご苦労さん。」



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