プリテンダー
「一緒に暮らしていたと言っても部屋は別々だし、僕はただそこに住んで家事をしていただけなんですけど…。杏さんはいつも僕の作った料理を残さず食べて、美味しかった、ありがとうって言ってくれました。」

僕がそう言うと、お祖父様は穏やかな顔をして嬉しそうに笑った。

「そうか…人と食事をするのも、物を食べる事自体も苦手だった杏が…君の手料理は美味しいと言って食べていたんだな…。」

「さすが私の孫でしょ?」

ばあちゃんも笑ってそう言った。

「ねぇ修蔵ちゃん。最初は頼まれて婚約者を演じていただけみたいだけど、章悟は杏お嬢さんの事、好きみたいよ?」

ばあちゃんの唐突なカミングアウトに、僕は思わずむせて咳き込んだ。

「ばっ…ばあちゃん!!突然何を…!!」

「あら、本当の事でしょ?」

なんでそんなにさらっと言っちゃえるんだよ?!

「それは本当かね?」

お祖父様の真剣な眼差しに、僕は一瞬怯みそうになった。

でも本当の事を話すって僕は決めたんだから。

婚約者としては偽物だったけど、杏さんが好きだって言うこの気持ちは嘘なんかじゃない、本物だ。


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