プリテンダー
「いくら好きでも、おまえのようなあざとい男にかわいい孫は任せられん。いい歳をして親の地位や財力にばかり頼っていないで、性根を入れ替えて一からやり直せ。」

お祖父様の厳しいお叱りの言葉に、イチキの御曹司はガックリうなだれた。

お祖父様がイチキの社長の方を見ながら、クイッと顎でドアの方を指し示した。

イチキの社長は深々と頭を下げて、御曹司を連れて病室を後にした。

お祖父様は杏さんに向かって穏やかに笑った。

「さて…穂高との縁談はこれで完全に白紙になった。杏は本当に結婚したい相手と一緒になりなさい。もちろん会社は継いでもらうがな。」

「えっ…?」

お祖父様の思いもよらぬ言葉に、杏さんは戸惑っているらしい。

「できれば生きているうちに曾孫の顔を見たいとは言ったが、すぐに子供ができなければ結婚を認めんとは言っておらん。」

僕が杏さんに頼まれて婚約者のふりをしていた事は話したはずなのに、なぜお祖父様はそんな事を言うんだろう?

杏さんが自分の口から、あれは嘘だったと打ち明けるまでは、お祖父様はその嘘に付き合う気なのかな?



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