プリテンダー
「杏さん、痩せたでしょう?ちゃんと御飯食べてますか?」

「いや…やっぱり食べるのもあまり好きではないし…人と一緒に食事をするのは苦手だ。」

有澤家に戻ってから、あまりちゃんとした食事ができていないのかな?

僕と暮らしている時は、いつだって残さず美味しそうに食べてくれたのに。

「僕と一緒に暮らしてた時はちゃんと残さず食べてくれましたよね?」

「鴫野の料理は不思議と食べられたんだ。どれも美味しかったし…鴫野となら、一緒に食べるのも苦にならなかった。」

僕だけは特別だと言ってもらったような気がして、嬉しくて胸がいっぱいになる。

「そう言ってもらえると嬉しいです。ついこの間まで向かい合って食事してたのに、なんだかもうずっと前の事みたいですね。」

「そうだな…。」


杏さんはまた黙り込んだ。

本当は聞きたい事があるのに聞きづらいって顔をしている。

やっぱりさっきの事、気になってるんだ。

僕がまたお祖父様に嘘をついたと思ってるのかな?

今を逃したら、もう言えないかも知れない。

そうだ。

ちゃんと僕の口から伝えなきゃ。



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