プリテンダー
「いつも彼女と一緒にいたじゃないか。」

「いましたね。会社帰りに待ち伏せされたり、強引に昼休みの約束をさせられて。」

「私が外で会うなと言ったから…人に見られるとまずいような事を、会社で人目を忍んでしていたんだろう?」

「…しましたよ、好きでもないのに。杏さんとの関係を下手に勘ぐられるのが面倒で、黙らせるために彼女の望むようにしてただけです。」

本音をぶっちゃけすぎたのか、杏さんはかなり戸惑っている。

「一度は断ったのに気を持たせるような事したのは確かです。でも好きじゃない人とそんな事するのが苦痛になってきて…そういう関係を終わらせたんです。」

「そ…そうか…。」

ほんの少し、杏さんの口元がゆるんだ。

杏さん、今少しホッとした?

僕が渡部さんを好きじゃないとか付き合ってないってわかって、良かったって思ってる?

「僕はホントは、杏さんに僕の作った弁当を食べてもらいたかったし、一緒に食べたかったんです。」

「そうか…余計な気遣いだったな…。」

「もしかして杏さんは、僕が渡部さんと付き合ってると思ったから、昼休みは別々に過ごそうとか弁当は要らないとか言って、僕と距離を取ろうとしたんですか?」

「…それもある。」

「他に何があるんです?」

「…言わない。」

言わないってなんだ?

言えないような事なのか?

絶対に言わせてやる。

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