プリテンダー
杏さんも僕と同じ事考えてたんだ。

それって僕と離れて急に一人になっても寂しくならないように、予防線を張ってたって事だよね?

「最初はなりゆきで仕方なく一緒に暮らしてたけど、僕はいつのまにか、杏さんが笑ってくれると嬉しいって思うようになったんです。」

杏さんは顔を上げて少し首をかしげた。

「僕は、僕の作った料理を食べてる杏さんの顔を見るのが好きです。」

「えっ?!」

杏さんは急にオロオロし始めた。

慌ててる杏さん、かわいい。

これって脈アリって解釈していいのか?

杏さんは激しく慌てふためいて、ぬるくなったコーヒーを一気に飲み干した。

そしてカップをソーサーの上に置いて、視線をさまよわせている。

いつもは強気なくせに、こんな話をするのに慣れてないから、かなりパニクってるな。

もっと言ってみようか。

「杏さんは僕の事、どう思ってるんですか?」

「えっ?!」

「市来さんとの縁談が破談になったから、杏さんにとって僕はもう用済みですか?」

「いや…その…。」

かわいいけど、まどろっこしいな。

好きなら好きって言ってよ、杏さん。

言ってくれたら、ふりじゃなくて、この先ずっと優しくするから。


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