プリテンダー
タクシーを降りて、杏さんの肩を借りながら部屋に帰った。

杏さんは僕をベッドまで連れて行ってから、冷蔵庫を勝手に開けた。

僕はベッドに体を投げ出して、杏さんって女の人なのに力があるんだなぁ、なんて事を思いながら、ネクタイをゆるめた。

「ほら、水でも飲め。」

杏さんは冷たいミネラルウォーターの並々と注がれたグラスを差し出したけれど、僕は自力で起き上がる事もできない。

「仕方ないな。」

グラスをテーブルの上に置いて、杏さんは両手を僕の首の後ろに回し、ゆっくりと起こしてくれた。

「ほら。これで飲めるだろう。」

差し出されたグラスを受け取って、一気に水を飲み干した。

「もっと飲むか?」

「杏さんって案外優しいんですね。」

「ん?案外は余計だな。」

「美人でスタイルが良くて頭も良くて、仕事ができて…おまけに優しいのに、なんで彼氏がいないんですか。」

本音なのか酔っているからなのか、僕の口は勝手に動く。

「何バカな事を言ってるんだ。」

杏さんは呆れた様子で、僕の手からグラスを取り上げた。

「とりあえずもう一杯だな。」


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