プリテンダー
空いたグラスに水を注ぎに行く杏さんの後ろ姿が、やけに色っぽく見える。

後ろからいきなり抱きしめたら、杏さんはどんな顔するだろう?

やっぱり驚いたりするのかな?

思いきり抱きしめて唇を塞いで、自由を奪ってやりたい。

……って…。

なにバカな事を考えてるんだろう。

あー、杏さんが色っぽく見えるなんて、相当酔ってるな。


「ほら、もう一杯水飲んで、さっさと寝ろ。」

僕は差し出されたグラスを受け取り、また一気に水を飲み干した。

杏さんは髪をかき上げながら、心配そうに僕の顔を覗き込んだ。

「大丈夫か?」

やっぱり色っぽい。

なぜだか無性に杏さんを抱きしめたくて、僕は杏さんの腕を掴んだ。

さっきの僕からは考えられないような、強い力で。

「大丈夫…じゃ、ないです…。」

杏さんは訝しげに眉を寄せた。

「もう少しだけ、ここにいてください。」

「…どうした?」

「杏さんにはわかりませんよね…僕の気持ちなんて…。」

僕は何を言ってるんだ?

こんな事、上司の杏さんに言ってどうするつもりなんだ?!


< 24 / 232 >

この作品をシェア

pagetop