プリテンダー
目が覚めると、外はもう随分日が高く昇っていた。

ぼんやりと目を開いて部屋を見回すと、テーブルの上にはグラスが置かれていて、部屋にいるのは僕一人。


変な夢見た…。

夢の中で、僕は杏さんを押し倒していた。

無理やりキスをして、抵抗する杏さんを押さえ付けて、身体中を弄んで。

あれって、一歩間違えば犯罪だろ?

夢で良かった…。


夕べの深酒のせいで、頭がガンガンして、胃の辺りがムカムカする。

寝返りを打つのも億劫で、仰向けのまま手足を投げ出し、ぼんやりと天井を眺めた。

杏さんとの事は夢だったけど、美玖との事は夢じゃなかった。

…あー、美玖とは終わったんだな。

昨日の今日だから、やっぱりまだ簡単に吹っ切る事はできない。

一人になって酔いが覚めると、思ったより参っている事に改めて気付く。

地味でつまらない僕なんか誰にも必要とされないとか、誰にも愛してもらえないとか、僕という人間を全否定された気分。

美玖の浮気現場を目撃した上にこっぴどくフラれただけでもかなり痛いのに。

その腹いせに、夢の中とは言え上司の杏さんを襲うなんて。

人間として最低だ。

本当に人間のクズだ。

なんかもう立ち直れそうもない。

だから今日はこのまま重力にも無気力にも逆らわず、二日酔いの重い体を横たえて大人しくしていよう。




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