プリテンダー
台所の後片付けを済ませた後、身支度を整えて家を出た。

通勤ラッシュの地獄絵図みたいな満員電車が苦手なので、その前に電車に乗れるよう早めに家を出る。

最寄り駅から3つ目の駅で電車を降りて、徒歩5分で会社に到着。

まだ時間が早いので、出社している人の姿もまばらだ。

企画開発部に入るとジャケットを脱いで、ロッカーから取り出した白衣を着る。

備え付けのコーヒーマシンからマグカップに温かいコーヒーを注ぎ、自分の席へ向かおうとした時、視界の隅で何かがうごめいた。

それは床の上に横たわり、モゾモゾと長い手足を動かしている。


やれやれ、またか。

もう見慣れたとは言え、やっぱりその光景は尋常じゃない。

みんなが出社する前に起こすとするか。



「起きて下さい、朝ですよ。」

そっと肩を揺すると、その人は眉間にシワを寄せた。

「うーん…。それじゃ採算が合わない…。」

…寝ぼけてる。

夢の中でまで仕事してるのか?

「採算が合わなくても起きて下さい。」

今度は強めに体を揺すってみた。

「うー…原価が…。」

あ、ようやく目を開いた。

「おはようございます。また社泊ですか?」

「あー、鴫野か…。おはよう。」

「こんなとこで寝ると風邪ひきますよ。」

「いや…体だけは丈夫なんだ。」

その人はゆっくりと起き上がり、大あくびをしながら頭をボリボリ掻いている。


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