プリテンダー
会社に着くと、いつものようにコーヒーを淹れた。

月曜の今日はさすがに、杏さんが床に寝ているという事もない。

金曜日にご馳走になったお礼と、酔って迷惑かけたお詫びだけはしておかないと。

そんな事を考えながらコーヒーを飲んでいると、杏さんが出社してきて部長席に着いた。

僕は席を立ち、コーヒーを淹れたカップを持って部長席に向かった。

「おはようございます。」

僕がコーヒーを差し出して挨拶をすると、杏さんは少し驚いた様子で顔を上げた。

「ああ…鴫野か。おはよう。」

「金曜はご馳走さまでした。あと、ご迷惑おかけしてすみませんでした。」

「もう大丈夫なのか?」

「おかげさまで。」

「そうか。」

杏さんはそれだけ言うと、黙ってコーヒーを飲んだ。

杏さん、機嫌悪いのかな。

まさか僕が夢の中で杏さんに襲い掛かった事がバレてるなんて、そんな事あるわけないか。



< 31 / 232 >

この作品をシェア

pagetop