プリテンダー
昼休み。

僕は試作室で一人になるのを見計らって、弁当を広げた。

あまり食欲はないけど、とりあえず食事だけはきちんとしておかないと。


『食べる事は大切だよ。落ち込んで食欲がないときも、体にいい美味しいものを食べると不思議と元気が出るもんだ。』


小さい頃からばあちゃんにそう言われて僕は育った。

両親の代わりに僕を育ててくれたばあちゃんのその言葉は、管理栄養士としての僕の原点と言っても過言じゃない。

離婚した両親からの仕送りがあったとは言え、ばあちゃん一人で僕を育てるのは大変だっただろう。

高校を卒業したら就職してラクさせてあげたいと思っていたけど、ばあちゃんは僕の将来のためにと言って大学進学を勧めてくれた。


僕はおにぎりを口に運びながら考える。

僕が食欲のない時に、ばあちゃんがいつも作ってくれたおにぎり。

確かに僕の作る料理は、地味と言えば地味なのかも知れない。

だって僕の料理のルーツは、ばあちゃんの手料理なんだから。



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