プリテンダー
ばあちゃんの事を考えながらおにぎりを食べていると、後ろでドアが開く音がした。

振り返ると杏さんが書類を手に驚いた顔をしていた。

昼休みに杏さんが試作室に来るのは珍しい。

「なんだ鴫野…いたのか。」

「ハイ、僕はいつもここで食べてます。」

「毎日弁当なのか?」

「そうです。」

書類を試作台の上に置いてドアに向かおうとした杏さんが、突然顔を手で覆って立ち止まったかと思うと、その場にしゃがみこんだ。

「杏さん!どうしたんですか?!」

慌てて駆け寄ると、杏さんは少し蒼白い顔をしている。

「どこか調子が悪いんですか?」

「いや、悪くはないんだがな。ちょっと…。」

立ち上がろうとした杏さんがフラリとよろめいた。

「無理しないでください。とりあえず、椅子に座りましょう。」

僕は杏さんの体を支えて椅子に座らせた。

「貧血ですか?」

「いや、多分あれだな。」

「あれ?」

「軽い低血糖だろう。」

低血糖って…血糖値が下がりすぎて起こるっていう、あれ?

「もちろん慢性的な低血糖症ではないぞ?一時的なごく軽いものだから大丈夫だ。」


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