プリテンダー
想定外の展開
翌朝、いつもより多目に味噌汁を作った。
弁当も二人分用意した。
昨日杏さんが僕の弁当を食べているのを見て、昼くらいは杏さんにまともなものを食べさせたくなったからだ。
またお腹すかせて倒れられても困る。
今日も素直に食べてくれるといいんだけど。
僕が会社に着いて間もなく杏さんが出社した。
杏さんが部長席に着くのを見計らって、僕はカップにコーヒーを注いだ。
「おはようございます。」
「おはよう。」
コーヒーを差し出すと、杏さんは黙ってそれを受け取った。
「今日も一緒にお昼どうですか?杏さんの分も弁当作って来ました。」
「え?いや…。」
「杏さんの分、作って来ましたから食べてくださいね。」
断ろうとした杏さんの言葉を、僕は笑いながら強めの口調で遮った。
杏さんは少し呆れたようにため息をついた。
「世話焼きなんだな、鴫野は…。」
「管理栄養士ですからね。杏さんの異常な食生活を見過ごせなくて。僕と一緒に食べるのがイヤなら、別の場所で食べてもいいですよ。」
「…いや、昼休みに試作室に行く。」
ちょっと強引かも知れないけど、こうでもしないと杏さんは自分から食事をしようとしない。
杏さんにカロリーバー以外のものを食べさせる事が、僕にできるとは思わなかった。
勝ち負けとかの問題ではないんだけど、なんとなく杏さんに勝った気分だ。