プリテンダー
寝起きの姿、いつ見てもひどいな。

「顔でも洗って来て下さい。」

「そうする。」


こんなだけど、この人は僕の上司で、実はすごい人なんだ。

容姿端麗、頭脳明晰。

29歳の若さで、商品企画開発部の部長を務めている。


小耳に挟んだ噂では、グローバルな視野を持つために幼少期から高校時代までを海外で過ごしたそうで、6ヶ国語を巧みに操る。

帰国後は超難関の国立大学の経営学部を首席で卒業したらしい。

そしてどこぞの裕福な家庭の出らしく、所作の美しさから育ちの良さが窺える。


それなのに、だ。

こんな仕事をしているにもかかわらず、食事に時間を費やす意味がわからないと言って、いつもデスクで仕事をしながらカロリーバーをバリバリかじっている。

社泊なんかしょっちゅうで、社泊した翌朝は必ずと言っていいほど、所構わずオフィスの床に寝転がっている。

仮眠室に行けばいいのに、時間になればどうせオフィスに戻るのだから、オフィスで寝る方が効率がいいらしい。

どうやらこの人の頭の中には、効率の良さしかないようだ。

もしかしたら、人間らしさが欠落しているのかも知れない。

僕もこの部署に配属された頃は相当驚いたが、しょっちゅうこんな場面に出くわすせいで、しばらくするとこのおかしな上司の姿にも慣れてきた。


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