プリテンダー
いたたまれない。

空気が重い。

僕は肩を落としながら、自分の弁当を取り出した。

杏さんはスープポットの蓋を開けて味噌汁を飲む。

相変わらず、眉ひとつ動かさない。

今日の味噌汁の具は、キャベツ、玉ねぎ、ニンジン、ジャガイモ、麩、玉子。

玉子は溶き卵にした。

弁当のおかずは、鯖の竜田揚げとカボチャのそぼろあんかけ、ひじきの煮物。

今日の弁当もうまくできたはずなのに、今の僕には味もろくにわからない。

杏さんは何も言わず、ゆっくりとおかずを口に運ぶ。

ヤバイ、変な汗出てきた。

ハンカチを取り出した瞬間、ポケットからこぼれ落ちた何かがコロコロと転がって、少し先にある椅子の下で動きを止めた。

僕はそれを拾い上げて、その存在をすっかり忘れていた事に気付いた。

部屋に落ちていたあのボタンだ。

後で矢野さんに返しておこう。

僕はそれをもう一度ポケットにしまい込んだ。



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