プリテンダー
この上司の名前は芦原 杏(アシハラ キョウ)。
かなりの変わり者で、部下たちには自分の事を“芦原部長”ではなく“杏さん”と呼ばせる。
顔を洗って戻ってきた杏さんは、デスクの引き出しからいつものカロリーバーを取り出した。
僕がコーヒーを差し出すと、杏さんは無表情でそれを受け取り、チラッと僕を見た。
「ありがとう。鴫野はいつも気が利くな。いいお嫁さんになれそうだ。」
「それはどうも。でも僕は男ですからね、お嫁さんにはなりません。僕がお嫁さんをもらいます。」
「それもそうか。」
杏さんは今日も、まるでそれ以外は体が受け付けないとでも言わんばかりに、パソコン画面に目を凝らしながらカロリーバーをかじっている。
社泊の日は社内の守衛室に併設されているシャワー室で、かろうじてシャワー程度はしているようだが、仕立ての良い高そうなスーツは、今日で3日目だ。
まだ顔を洗ったばかりでほぼノーメイクなのに、真剣にパソコンに向かう横顔は別世界の人のように美しい。
女優並に美人でモデル張りにスタイルが良くても、中身があれじゃあ嫁の貰い手はないな、などと陰で噂されていても、杏さんはどこまでもマイペース。
仕事の事には細かいのに、それ以外の事はあまり気にしないらしい。
そんな杏さんの事を、社内の人間はこう呼ぶ。
“この上なく残念な美人”と。
かなりの変わり者で、部下たちには自分の事を“芦原部長”ではなく“杏さん”と呼ばせる。
顔を洗って戻ってきた杏さんは、デスクの引き出しからいつものカロリーバーを取り出した。
僕がコーヒーを差し出すと、杏さんは無表情でそれを受け取り、チラッと僕を見た。
「ありがとう。鴫野はいつも気が利くな。いいお嫁さんになれそうだ。」
「それはどうも。でも僕は男ですからね、お嫁さんにはなりません。僕がお嫁さんをもらいます。」
「それもそうか。」
杏さんは今日も、まるでそれ以外は体が受け付けないとでも言わんばかりに、パソコン画面に目を凝らしながらカロリーバーをかじっている。
社泊の日は社内の守衛室に併設されているシャワー室で、かろうじてシャワー程度はしているようだが、仕立ての良い高そうなスーツは、今日で3日目だ。
まだ顔を洗ったばかりでほぼノーメイクなのに、真剣にパソコンに向かう横顔は別世界の人のように美しい。
女優並に美人でモデル張りにスタイルが良くても、中身があれじゃあ嫁の貰い手はないな、などと陰で噂されていても、杏さんはどこまでもマイペース。
仕事の事には細かいのに、それ以外の事はあまり気にしないらしい。
そんな杏さんの事を、社内の人間はこう呼ぶ。
“この上なく残念な美人”と。