プリテンダー
ようやく弁当を食べ終わると、杏さんは手を合わせて、ご馳走さまと静かに言った。

……長かった。

杏さんのために量をかなり少なめにしたつもりだったのに、なにしろ杏さんは食べるのがとても遅い。

無言で向かい合っている時間は、いつもの何倍にも増して、とても長く感じられた。

杏さんが立ち上がって僕を見た。

「鴫野。」

「ハイ…。」

一体何を言われるんだろう。

変な汗が背中を伝っていくのがわかる。

「ありがとう、今日も美味しかった。」

「ありがとうございます…。」

美味しかったという言葉に、ほんの少し安堵した。

だけどそれも、ほんの一瞬だった。

「ずいぶん節操がないんだな。」

「えっ…。」

杏さんの一言で、僕の心は一瞬にして凍りついた。

「結局、相手は誰でもいいんだろう?」

杏さんの言葉が、冷たいナイフみたいに容赦なく僕を斬りつける。

「いや…そういうわけじゃ…。」

「なくはないだろう?つい何日か前に彼女にフラれたと言って大騒ぎしておいて、さっきのあの子はなんだ?新しい恋人か?」

「いえ…違います。」


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