プリテンダー
ちょっと待てよ。

金曜の夜に僕を送ったのが杏さんだって?!

杏さんのブラウスのボタンが僕のベッドに落ちてたり。

夢に見た杏さんの唇や体の柔らかい感触がやけにリアルだったり。

シーツについていた、血みたいなシミとか。

そういえば昨日の朝、燃えるゴミを集めていたら、ゴミ箱の中からやけにたくさんのティッシュが出てきた。

その時はあまり気にも留めなかったけど…。

って事は、まさか…。


『酔っていなくても…おまえは誰にでもあんな事をするんだな。』


ええぇーっ?!

そういう意味?!

あれは夢じゃなかったのか?!

僕はホントに、酔った勢いで杏さんを…?!

ヤバイ…有り得ない…!!

何かの間違いであって欲しい…!!

「どうした?顔色悪いぞ、鴫野?」

「いや…なんでも…。」

まさかクビとか…。

訴訟とか…。

責任取れとか…。

さっきまでとは比べ物にならないほど冷たい汗が、僕の背中を滑り落ちた。

杏さんに直接確かめる勇気なんてないけど…このまま黙って、覚えていないふりをしていていいものか?

杏さんは何も言わなかったけど、どう思ってるんだろう?





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