プリテンダー
いつものように出社すると、オフィスの床に杏さんが寝転がっていた。

また社泊したんだな。

それにしても無防備だ。

タイトスカートの裾から伸びるスラリとした脚が艶かしい。

……変だな。

今までこんな姿、何度も見てきたというのに。

寝起きの杏さんは色気がないと思ってきたはずなのに、今日はその寝姿がやけに色っぽく見える。

とりあえずコーヒーを飲みながら心を落ち着かせ、謝罪の言葉を口の中で何度も呟いた。

よし、僕も男だ。

覚悟を決めて誠心誠意謝ろう。


「杏さん、起きてください。」

僕が体を揺すると、杏さんは眉間にシワを寄せた。

「ダメだ…そこに味噌汁を入れたら…汁がこぼれる…。」

なんの夢を見てるんだ?

「杏さん、朝ですよ。」

「運搬時のコストを考えろ…。」

まったく…。

夢の中でまで仕事してるんだから、この人は。

せめて夢の中くらい、イケメンと恋愛とかすればいいのに。


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