プリテンダー
呆然と立ち尽くしていたイチキの御曹司は、慌てて杏さんに駆け寄った。

「杏、今からでも遅くない、考え直してくれ。俺と結婚しよう。」

「それは無理。私は彼と結婚する。いくらお祖父様が決めたからって、穂高と結婚は考えられない。」

「なんでだよ!!俺はずっと杏が嫁入りしてくれるのを待ってたのに!!」

…必死だな。

よほど杏さんが好きなのか、それとも家同士の兼ね合いの問題で引くに引けないのか、なんかイチキの御曹司がかわいそうになってきた。

「穂高はただの幼馴染み。それ以上に思った事はない。だからもし万が一結婚したとしても、指一本触れさせないから。」

うわ、きっつー…。

男として、さすがにこれはこたえるだろ。

「俺になんの不満があるって言うんだ!!庶民のその男のどこがそんなにいいんだよ!」

さっきから聞いてりゃ庶民庶民って…。

庶民バカにすんなよな。

「うん?どこがって…。章悟は美味しい御飯を作って食べさせてくれる。」

僕のいいところって、そこ?

そこだけ?

もっとそれ以外に何か…と思ったけど、御曹司に勝てるとこなんて他にないか。


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