プリテンダー
その場の流れで、僕も杏さんに続いてリムジンに乗り込んだ。

うーん…緊張する…。

落ち着かない…。

どこに向かっているのか、リムジンに乗っている間ずっと、杏さんは僕の腕に腕を絡めて密着していた。

杏さんは胸元の開いたドレスの上にショールを羽織っている。

綺麗に浮き出た鎖骨とか、髪を上げて露になった華奢な首筋とか、妙に色っぽい。

勘違いして変な気だけは起こさないようにしよう。


リムジンはしばらく夜の街を走り、超高級マンションの前に到着した。

助手席に座っていた黒服の男が、素早く車を降りて後部座席のドアを開けた。

もしかしてSPとかいうやつ?

杏さんは当たり前のように車を降りる。

あ、そうか。

僕みたいな庶民にとっては、リムジンに乗るなんて一生に一度あるかないかの事だけど、有澤グループの令嬢の杏さんにとっては、これが当たり前なんだ。

なんと言うか…職場での杏さんからは考えられないようなギャップ。

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