プリテンダー
食事の後、洗い物を済ませてお茶を淹れると、杏さんはお茶を一口飲んでおもむろに口を開いた。

「単刀直入に言う。鴫野、私と結婚しろ。」

……は?

結婚しろ、とな?!

いくらなんでも単刀直入過ぎるだろ?

せめてそこに行き着くまでの経緯を詳しく話して欲しい。

「ちょ…ちょっと待ってくださいよ、いきなりですか?もうちょっと順を追って詳しく話してください。」

「いきなりもなにも、さっきの話の通りだ。」

えーっと…さっきの話を要約すると…。

杏さんが有澤グループのご令嬢で、お祖父様が決めた婚約者がイチキコーポレーションの御曹司で、杏さんはその御曹司とは結婚する気がない、と。

だからって、なんで庶民の僕が杏さんと結婚?

どう考えても不釣り合いだ。

「あのー…なんで僕なんですか?もっと相応しいお相手がいるでしょう。」

杏さんは険しい顔をした。

「私は有澤グループを継ぐ気はない。だから大学卒業後、家族の反対を押しきって今の会社に就職した。親族もいるし、家の事は弟の出(イヅル)に任せるつもりだ。」

「それでも…お祖父様は杏さんに継がせたいんですか?」

「そうらしいな。イヅルには海外支社の統轄をさせたいらしい。」

なんていうか、家業のスケールが違い過ぎる。


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