プリテンダー
「昔、ばあやにもそんな事を言われたな…。鴫野、ばあやみたいだぞ。」

「ばあや…ですか…。」

ばあちゃんに育てられた僕は、いつの間にやらすっかりばあやキャラだ。

「何も食べられなくなった時も、ばあやだけは私の体を心配して…少しでも食べられそうな物を考えて用意してくれてな…。一口でも食べられると、よく頑張ったと言って抱きしめてくれたんだ。」

ばあやの話をする時の杏さんは、とても穏やかな表情をしている。

杏さんにとってばあやは、きっと心を許せる唯一の存在だったんだろう。

「でもばあやは、私が小学校に上がる前に、家庭の事情で辞めざるを得なくなってな…。それで私は両親のすすめもあって、実家を離れて海外の学校に通う事になった。」

そんな事情があって海外生活が長かったのか。

グローバルな視野を…とかいうのは表向きだったんだな。

杏さんはばあやとの穏やかな時間を思い出したのか、優しい目でふっと笑った。

「鴫野の作った料理は懐かしい味がするんだ。ばあやの料理に似てる。」

「あ…だから僕の作った弁当は食べてくれるんですか?もしかして、僕と一緒に食べるのはつらいですか?」

「いや、不思議なんだが鴫野なら平気だ。」

僕なら平気って…料理を作ったのが僕だから?

それともやっぱり、僕がばあやみたいだから?

理由はよくわからないけど、なんとなく嬉しいような気もする。


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