プリテンダー
「それじゃあ…これからも毎日、杏さんの分も弁当作ります。」

「うん?弁当だけじゃないだろう?」

「え?」

「朝昼晩、毎日。」

杏さんの幼少期やばあやの話を聞いているうちに本題を忘れかけてたけど、それはつまり…。

「鴫野、明日から私と一緒にここに住め。」

「えーっと…だから僕では…。」

荷が重すぎます、と断ろうとすると、杏さんが僕をビシッと指差した。

「おまえ、自分のした事を償うと言ったな?」

うう…確かに言ったけど…。

「とりあえず、婚約者のふりをして私と一緒にここに住め。」

「婚約者のふり…?本当に結婚しなくてもいいんですか?」

「当たり前だろう。結婚すると言うのは、お祖父様をやり過ごすための芝居だ。」

よ……良かったぁ…。

どう考えても僕に杏さんの夫が務まるとは思えないもんな。

「さっきはあれで引き下がったが、お祖父様は様子を見に行くと言っただろう?」

「ええ、確かに。」

「お祖父様はな…やると言ったら、何がなんでも必ずやるんだ。きっと近いうちに、実際に私たちが一緒に暮らしているかを見に来る。おそらく、密偵に見張られたりもする。」

密偵って…ドラマですか!!

もうついていけそうにない。

口ごもっている僕に、更に強烈な杏さんの一押し。

「会議室での件も黙っててやる。禊だと思ってしばらくの間付き合え。」

禊だと思ってと言われるとイヤとは言えない。

ここは覚悟を決めるしかなさそうだ。

「わかりました…。」




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