プリテンダー
誕生日とか記念日にもらったプレゼントはどうしたっけ。

……そもそも、プレゼントなんてもらったか?

ああ、そうか。

美玖からのプレゼントはいつも形に残るような物ではなくて、使ったり食べたりしてなくなるものばかりだった。

自分はブランドのバッグやアクセサリーをねだったりしてたくせに、今思えば僕は安くあげられてたんだな。

今更だけど、愛されていなかった事に改めて気付く。

次に出会う恋人には、ちゃんと心から愛されたいし、もちろん僕も目一杯愛したい。

そう思っていたけど、当分そんな出会いもなさそうだ。

だって僕は明日から、杏さんの婚約者として一緒に暮らすんだから。

……偽者だけど。


帰り際、杏さんは言った。

密偵に見られると困るから、婚約者として一緒に暮らしている間は、外で他の女と会うのは控えろと。

それはつまり、この件から解放されるまでは新しい恋人なんか作るなって事だ。

一体どれくらいの期間に及ぶのか、見当もつかない。

残しておいて怪しまれないように、僕の部屋は引き払う事になった。

この件が終わったら、新しい部屋を用意してやると杏さんは言った。

初めて一人暮らしをしたこの部屋、それなりに気に入ってたんだけどな。

でも何度もこの部屋で一緒に過ごした美玖との思い出を吹っ切るには、いい機会なのかも知れない。

目に見える思い出を、跡形もなく消してしまえば、心に残った思い出も、いつかは綺麗に消えてなくなるだろう。





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