プリテンダー
もうすぐ10時になろうかという頃、杏さんが帰宅した。

「おかえりなさい。」

「ああ…ただいま。」

杏さんはほんの少し驚いた顔をした。

一人暮らしが長くなると、帰宅を出迎えられる事さえ新鮮なんだろう。

「お腹すいたでしょう。すぐ晩御飯にしましょうね。」

「まだ食べていなかったのか?無理して待っていなくてもいいんだぞ。」

なんだ、この新婚夫婦みたいな会話は?

さしずめ僕は、新妻ってとこか。

杏さんは鞄を置き、ソファーに寝転がって大きく伸びをした。

「せっかくだから一緒に食べた方が美味しいかなと思って。」

テーブルの上に料理を並べると、杏さんは洗面所に向かった。

どうやら手を洗っているらしい。

手を洗い終わると、杏さんはテーブルの上の料理を珍しそうに眺めながら席に着いた。

「これ、なんだ?」

皿の上の料理を指差して尋ねる杏さんは、子供みたいでちょっとかわいい。

「蓮根のはさみ揚げです。」

「これは?」

「筑前煮ですね。どうぞ、召し上がってください。」

「ふーん…。いただきます。」


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