プリテンダー
「それから…昨日も言ったように、どこで誰に見られているかわからないからな。他の女と外で会うのはしばらく我慢してくれ。」

「…外でダメなら、どこで会えばいいですか?ここにも呼べないし、会社でってわけにもいかないし…。どこでも会えませんよね?」

杏さんは少し首をかしげて考えるそぶりを見せた。

「…それもそうだな…。だったら我慢しろ。」

「……できるかな…。杏さんも合意してくれそうにないし…。」

あ、また余計な事を…!

杏さんはまた顔を赤くして、さっきより更に強い力で、僕にクッションを投げ付けた。

「何がなんでも我慢しろ!!」

「が…頑張ります…。」


杏さんって意外とからかい甲斐があるなぁ。

普段ポーカーフェイスで強気な分、こういう顔を見ると堪らない。

恥じらってうつむく顔を、両手で押さえ込んで逃げ場を失わせて、穴が空くほど眺めてやりたいとか。

じわじわと追い詰めて怯えさせて、すましている綺麗な顔を脅威に歪めてやりたいとか。

普段泣かない強い女が屈辱に涙している顔なんて、考えただけでゾクッとする。

ここにいる間に合意させたいな。

って言うか、杏さんからお願いさせて泣かせたいんだけど。

……って…。

僕はまた何を考えてるんだ?!

なんだか最近おかしいぞ?

何があっても、杏さんには触れないようにしないと!



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