プリテンダー
もうひとつの問題
杏さんと僕が一緒に暮らし始めてから、何事もなく平穏に10日が過ぎた。
杏さんとの暮らしは特に困った事も難しい事もなく、思ったより快適だと思う。
近いうちに様子を見に来ると言っていたお祖父様は、まだ姿を現さない。
これ、一緒に暮らす意味あるのかな?
だけど杏さんが言っていたように、どこからか密偵に見張られているかも知れないので、ここで気を抜くわけにはいかない。
完全にお祖父様を騙しきるまで、きっと僕は杏さんと離れられないんだろう。
杏さんは婚約者のふりをするだけでいいと言ったけど、本当にそれだけで済むのか、正直言うと少し不安だ。
その日僕は矢野さんと二人で、試作室にこもって新商品の試作をしていた。
「なぁ、鴫野。」
「なんですか?」
うーん、全体的に見た目が地味だな。
栄養価的にはバッチリなんだけど。
もう少し彩りが華やかな食材に変えるべきか。
「おまえさぁ、渡部から告白されただろ?」
「えっ?!」
矢野さんの唐突な言葉にビックリして、花形の人参を思わず箸で潰してしまった。
「鴫野から返事がないって、渡部がヘコんでたぞ。」