プリテンダー
断るの、気が重いな。

かと言ってこのまま放っておくわけにもいかないか。

渡部さん、大人しそうに見えて案外押しが強いんだ。

いきなりキスなんかされた時には、かなり驚いた。

ちょっと悪乗りしちゃったから、余計に顔を合わせづらい。


だけどこのまま杏さんの婚約者のふりを続けるとして、一体いつになったら僕は自由になれるのか?

婚約者役から解放されるまで、ちゃんとした恋人も作ってはいけない。

そうなると、こっそり自己処理するしかないわけで。

杏さんとは恋愛とか体の関係とかはないと思うし、僕はいつまで禁欲生活を続ければいいんだろう。

正直、先が見えないのはかなりきつい。

僕だって健全な成人男子だ。

人並みに性欲だってあるし、恋愛もしたい。

せめて婚約者のふりを続けながら誰かと付き合えたらいいんだけどな。

だったら好きだって言ってくれてるし、杏さんに内緒で渡部さんとコッソリ付き合っちゃおうか。

…とは思わない。

付き合えれば誰でもいいってわけでもないし、なぜか渡部さんとは付き合いたいと思えない。

杏さんとの約束をやぶるわけにもいかないし、渡部さんには悪いけど、やっぱりちゃんと断ろう。




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